荒汐部屋 目次

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平成23年 九月場所の総括

大きなことはなかったけれど,細かいことはたくさんあった荒汐部屋の平成23年九月場所。千秋楽打ち上げパーティーから,恒例の早川様インタビューにてお届けします(※インタビュー記事,写真はそれぞれ早川様ご提供,編集メモは荒汐部屋による)

  • 師匠 荒汐 (35勝35敗,勝率:5割)
  • 福轟力 (2勝5敗:幕下東27枚目)
  • 大波 (3勝4敗:三段目東64枚目)
  • 荒篤山 (4勝3敗:三段目西85枚目)
  • 荒行志 (2勝5敗:序二段西16枚目)
  • 突光力 (5勝2敗:序二段西37枚目)
  • 大小林 (3勝4敗:序二段西41枚目)
  • 荒獅子 (6勝1敗:序二段西46枚目)
  • 廣瀬 (4勝3敗:序二段西62枚目)
  • 寛龍 (3勝4敗:序二段東71枚目)
  • 力山 (3勝4敗:序二段西79枚目)
  • 式守一輝 (三段目格行司)

師匠 荒汐

荒汐 本日はお集まり頂き,ありがとうございます。え~,毎場所千秋楽には私が力士一人一人の批評をする,ということが恒例になっておりますが,今場所はそれをしていたら,まぁあれやこれやと長くなってしまいそうなので,思いついたことだけ簡単に振り返っていくことにします。

え~,まずは赤井(福轟力)。赤井は,もうそろそろこの辺りで相撲を変えていかないと,この先上がっていくのは難しいかな,というところに来ています。まぁ,本人は立ち合いはなんとか先手が取れるようになってきた,少しづつ変わってきたと思っているかもしれません。ただそこから次の攻め手がまだ自分でもどうしていったらいいのかが見えていないまま無理をするから,自分十分になれないまま,そこを相手につけこまれる,といった相撲です。先手を取ったら,自分がまだ優位に動ける余裕があるうちに体勢を作る。相手の懐に入っていくとか,四つに組んでいくといった取り口を考えても良いのかなぁ,と私は思っています。ただ本人にしてみれば,首を骨折して頭で当たれなくなった分,稽古して稽古して突っ張りを身につけて,出来れば突っ張りで立ち合いからそのまま押し切りたい,という未練があるのかもしれません。まだまだ相撲に迷いがあります。だから今場所は2勝5敗。今場所も負け越しでした。

え~,次は大波。そしてリキ,力山。もう~,この二人は四股とテッポウが足りません。体が小さいもんは,徹底的に下半身をいじめて,四股・腰割りといった下半身の稽古を,何十回,何百回とやらなければいけないんです。大波も今,壁にぶち当たっていますけど,もう一度基本に戻って考え直してもらいたいと思います。

次は光(荒獅子)。よく勝ったねぇ~(笑)。6番勝ちましたので,来場所は三段目に戻れます。まぁ,よく勝った。

あと一人,突光力。5勝2敗。まぁ,勝って当たり前。先場所は名古屋で,「私は弱くて負けたわけではありません!」と本人も申しておりましたから。まぁ,5番ぐらい勝って当たり前かな,と。

あ,あとジャスパー(荒篤山)を忘れていました(笑)。よく勝ち越したねぇ~(笑)。初めての三段目で4勝3敗。あと一番勝って5勝してたら,来場所大変なことになってたぞ(笑)。まぁまぁ,おめでとう。

まぁ,そんなところで。今場所は勝ったり負けたり。全体の印象としましてはたくさん課題が残ったような場所となりましたので,また次の場所に向けて稽古に取り組んでまいります。

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福轟力 (2勝5敗:幕下東27枚目)

福轟力 勝てませんねぇ・・・

全体的には,立ち合い攻めれてはいるんすけど,勝ち急いでしまって,引かなくてもいいところで引いてしまって,そこを逆に相手に出られて負けた相撲が2番ありました。ん~。このパターンは今場所に限ったことではないんですよね。自分の中では,‘引かない’と思っていても,焦って引きにいってしまう。まだ一杯一杯なんすよね。

これからの課題は,親方も言ってましたけど,立ち合いからその次の攻めっすね。突っ張っていって,まわしを取っていい形になって前に出られればいいんですけど,突っ張っていった相撲を急に変えてまわしを取りに行くのも難しいし,がっぷり四つになったら勝てないんで。やっぱり突っ張りきれるのが一番,良いのかなぁ,と。そう思いながら叩いたりいなしたり引いたり・・・まぁ,とにかくいい流れの中で取れてばいいんですけど・・・。

先場所は3勝4敗,今場所は2勝5敗でしたけど,内容的には今場所の方が良くなっているんです。もうちょっとのところなんです。稽古で試したいことがいっぱいあります。課題がハッキリした,という意味では収穫のある場所でした。

こんなところで,デレッとはしていられないんで。いまは「何か」が足りない。それを見つけるためにも,いろんなことを試してやっていきます。

編集メモ

「生まれ変わりを要求されてます1号」の福轟力。表情からその要求がいかにキビシイかが伺われます。(詳しくはミニコラム「ここからがまさに修行」

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大波 (3勝4敗:三段目東64枚目)

大波 ・・・って言うか,ヤバイんすよ。

頭で考えてることと反対のことを体が勝手にしてるんす。

立ち合い,頭の中では‘前に前に’と思ってるのに,気が付いたら相手を引っ張り込みに行ってるんすよ。今場所は,立ち合いから左に動いて相手の腕を手繰りに行って,それが逆に呼び込む形になって,一気に相手の体をあずけられて押し出された相撲が2番ありました。

「え?オレ,なんで?」って。まっすぐ前に押して行こうって思ってるのに。相手に無言のオーラがあったとか?んんん・・・。そんなんでもないと思うんすけどねぇ。

今日千秋楽の相撲は,相手を左でおっつけて,右は肩押さえた体勢で右足を飛ばしたら,スポーンって蹴手繰りが決まりました。土俵の上で「うわ~,きれいに決まったぁ~」と自分でもびっくりしたっす。でも,本当はそんな小細工じゃなくて,前に出る相撲じゃないといけないっすよ。

来場所はジャスパー(荒篤山)に番付抜かれますね。あと多分,内海さん(荒獅子)がその次で,自分はその次っすね。んんん。でも今はとにかく自分の相撲をなんとかしないといけないっすねぇ。

・・・って言うか,ヤバイんすよ。

編集メモ

「生まれ変わりを要求されてます2号」の大波。四股・テッポウで徹底的に下半身を鍛えろという師匠の言。じゃあ,やればいいだけじゃないか,と思われるかもしれません。ただ,プロレベルでそれをするには,ほかのあらゆる想念(本場所でどんな相撲をとろうか,とかさえ含めて)をいったん忘れて,ただひたすらに取り組まずにはやり遂げらるものではありません(入試勉強,資格試験,起業開業,創作開発,どんな世界でも同じことだとは思いますが)。いろんなものをいったんかなぐり捨てて,ただ一心に四股を踏んでいる大波を見たとき,彼は幕下,いや関取力士として土俵にいることでしょう。

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荒篤山 (4勝3敗勝ち越し:三段目西85枚目)

荒篤山 インタビューっすか?聞いて下さい。はい。おかげさんで勝ち越すことができました。

シュー!#%+$*いやぁ~,ヤバイっすよ。あっはっはーーー!!!

初日はサイアクだったんすよ。立ち合い,自分前に前に出てって左の廻しとったっすよ。そっからそのまま前出ていけばいいのに,自分何を思ったか,出し投げにいったんす。それまでは自分の体勢が良かったのに,出し投げなんか打って相手を思いっきり呼び込んで逆に相手の良い形を作っちゃったんです。ってゆーか自分,まだ出し投げの打ち方知らないんすよ。おーおーと思って足が揃ったところで,逆に相手に投げ打たれて,ズデーン!せっかく良い体勢作ったのに,サイアクっすよ。

そんな相撲で初日負けたんで,二日目は前に出てって,二本入ってバーって出て寄り切り。あと勝てた相撲は,稽古場で教えてもらった廻しを切ってから寄るとか,左からのおっつけで出るとか,稽古で出来るようになったことが本場所でも出来たっす。ヨカッタっす。エヘへ。

でも,今場所勝ち越せたのは,気持ちの面が大きかったと思います。1勝2敗になった後に,ある人から電話があって,「自信を持って前に出れば,お前は勝てる。自信持って,どんどん前に出ろ」って言ってもらったんすよ。あの一言でラクになったすね。それまでは知らないうちに考えすぎて自分らくしない相撲になってたと思うんすけど,なんかホントあの一言で急にラクになれて。そっから3連勝で勝ち越しっすよ。

来場所はさらに厳しいとは思いますけど。自分は前に前に出るだけっす。

編集メモ

素直であることが羨ましいほど。例えば話に出ている,廻しを切っての寄りにしても,稽古場の後ろのほうで実際に兄弟子と組みながらこう動けばいいと習ったら,その後,しつこいくらいにあからさまに,三番相撲で申し合いで,その動きを大げさなまでに毎日毎日実行し続ける。あるいは,人からことばをかけてもらったら,それがそのまま心に入ってくる。この類稀な素直さが今の荒篤山の一番の武器かもしれません。

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荒行志 (2勝5敗:序二段西16枚目)

荒行志 あっ,はい。周りからは最高位で2番勝ったから‘善戦’した,と言われましたけど,自分的には残念です。2勝1敗から4連敗ですし。もう少し‘善戦’したかったです。

2勝2敗になったところからは気持ちの持ち方が難しかったです。前も2勝2敗になったところで,集中するのが難しい感じになってきて,その時は逆になんかいい具合に力が抜けて勝ち越すことができたんですけど,今場所はそのまま連敗で終わってしまいました。よくテレビでも本場所を通して集中力を保つことが難しいとか言いますけど,今場所その気持ちがようやく実感として分かった感じです。同じ番付ぐらいの人たちは,気合の入れ方も違うし,体もデカくて迫力がありました。

場所前から稽古場でも相撲が取れるようになって,いろいろと実になってると思います。でもまだまだ自分の型がないんで,逃げ回ってばかりの相撲です。相手のペースに合わせて逃げて逃げて逃げ回る中で勝機を見つける相撲です。本来なら自分のペースで攻める中で勝機を見つけないといけないんですけど。何をやってきたんだろう,って感じです。

これからは下からするどく当たって出て行く相撲を身につけたいです。自分度胸がないので,頭から当たっていけないんです。リキさん(力山)みたいな気合も必要だと思います。前に出る力もないんで,土俵の外に相手を出すというより,土俵の中でどうやって転がすか,ばっかり考えてしまっています。なんか自分,直すこと,やらないといけないことがありすぎです。

編集メモ

突如番付が急上昇したため,場所前は師匠でさえ1勝できたら凄いぞ,との評判の中,2勝して「もう少し‘善戦’したかった」と相変わらずのL'enfant terrible風味。これまではただ楽しんだ本場所でしたが,いよいよ序二段上位になると雰囲気が一変するのをまざまざと感しさせられたのでしょう(これまでバシバシ決まった変態技も効かないは,読まれるは,するスキもないはで),課題をたくさん見つけた模様です。

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突光力 (5勝2敗勝ち越し:序二段西37枚目)

突光力 おかげさんで,5番勝つことが出来ました。

でもスタートは決して良くなかったんすよ。最初の一番は,立ち合いの呼吸が合わなくて,不成立っぽい感じのままババババーンって一気に持っていかれたんすよ。会場からも,タメ息が聞こえてくるくらいのひどい相撲。マジ,はずかしかったっす。いつも稽古見てもらっているカシラ(若者頭・福の里さん)からも「あんな相撲だったら,何のために稽古つけてるのか分からない」って言われて。カシラのために稽古してるわけではないですけど,申し訳なかったですね。あの言葉で火が付きました。

それで三番目の相撲も相手にババババーンって持って行かれて,あっさり寄り切られた時は,もぉー情けなくて情けなくて。本当にしょっぱい相撲でした。自分,たまに日記を書くんすけど,日記にも「しっぱい,しょっぱい,しょっぱい」って1000回くらい書いてました。夜布団に入っても「あ~しょっぱい」と思うと寝れなくて。タメ息1000回くらいついてました。

そんな感じの1勝2敗スタートから,終わってみれば5番勝てて。本当にヨカッタっす。場所前はぎっくり腰もあって,稽古ができない時期も何回かあって,今もコワくて出来ないこともあるっすけど,これはもう付き合っていくしかないんで。ま,よくガンバリました。来場所はもっともっと強く当たっていかないとキツイと思います。

ジャスパーに三段目先越されて悔しい思いもあるんで,出来ることを一つづつしっかりやっていくっす。

*注:‘しょっぱい’とは,相撲用語で‘弱い・情けない相撲を取る’の意。語源は塩の撒かれた土俵を這っているさまからきている。

編集メモ

腰に不安はあるものの,気力体力充実の突光力。師匠も5勝は当たり前と言うように,今の突光力にこの地位での5勝は特筆することもありません。と,周りにはそう見えても本人の中ではコメントのとおり葛藤が。真摯で真面目で男前の突光力らしいお話でした。来場所こそ三段目に行きます。

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