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今日の一枚

気が遠くなる

今日の一枚最近毎日毎晩,シャカシャカシャカシャカと,やすりで直径5mmくらいの鉄の棒を削っている床光。

何をしているのかというと床山の商売道具「髷棒」を作っています。関取の大銀杏を結うときに,この髷棒で全体の形を作りあげます。この髷棒は床山の命とも呼べる道具で,この使いこなし一つで関取の髷姿を決するもの。それだけに,床山はそれぞれ自分で,自分の手にあった髷棒を作ります(床山が質屋に髷棒を持っていけば,命を担保にしているようなものだから,ものすごく借りれる,という伝説があるほど)。

その材料も,ピアノ線,ホイールのスポーク,ハンガー,畳針などなど,長さ硬さ太さ,それぞれの好みで人によって違うようです。入門したばかりの床光の場合,もちろん好みも何も言えるような段階ではありませんから,先輩から渡されたこの円柱状の棒をひたすら針になるまで磨いていきます。

気が遠くなるほど地道な作業ですが,こうして毎日毎日この棒をあーでもないこーでもないと削っているうちに,いわば髷棒操作の内部モデルが獲得され,まるで自分の手の一部のように髷棒を意識せずとも動かせるようになるのでしょう。髷棒作りはまさに熟達にむけた重要な訓練のようです。

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